第2章:異世界の人

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 出社する時間を試行錯誤した結果、電車は二本早めにした。  混雑がなくなったわけではないが、オフィスビルのエントランスの混雑は初日ほどではない。それだけでも、まだ出社時の苛立ちは幾分か、緩和される。  エレベーターにも待たずに乗れて、スムーズにフロアへと着いた。 「……なぁ、一緒に行こうぜ、浜ちゃん」 「勘弁してくださいよ、気持ちだけで十分ですから」  聞きなれない男性の声と浜村課長の声がする部屋に入れば、要は浜村が話しているその長身の人物の外見にギョッとした。  頭には白いタオルを巻いて、黒いタンクトップから伸びる腕は日焼けして黒ずんでおり、鍛え上げられた腕の凶暴性を上げているし、下半身は元の色が判別できないほど、薄汚れたオレンジのつなぎの袖を腰に縛り、泥だらけの皮ブーツはその周辺のタイルカーペットを汚している。  女性は制服、男性はスーツのこのフロアにおいて、この風貌は、あきらかに異彩を放っていて、そのガタイのいい大男が受付の簡易テーブルにもたれかかり、姿勢の正しい浜村を上から見下ろしながら話している様はサラリーマンに絡んでいるチンピラにしかみえない。 「おはよう、要」 「……おはようございます」  意図せず、その大男を睨みつければ、こちらの視線に気づいたのか、その男は表情を一変させ、 明らかに要に対して怪訝そうな顔をした。 「浜ちゃん、こいつ誰?」 (こいつ?僕はおまえより、まともな仕事してる人間だぞ) 「ああ、紹介しますね。今年入社の獅子ヶ谷要です」 「はじめまして、獅子ヶ谷です」 「あー、新人ね。どーりで見ない顔だと思った」 「要、こちら、うちの外装や内装を担当してくださってる森中工務店さんだ」 「よろしくお願いします」  カタチだけの一礼をして、相手の顔を見ずにそそくさと席に戻った。できれば、こういう人種とは関わりたくない。浜村の身の安全も確保されていることだし、自分の出る幕はなさそうだ。
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