2082人が本棚に入れています
本棚に追加
「何の用だ。勝手に入るな」
ノックをしたのだから、勝手ではない。むしろ客人を無視したのは、そっちのほうだ。
要は負けじと事務所の中に進み、純太郎の背に立った。
「お話があって」
「俺にはない。邪魔だから帰れ」
要に背をむけたまま、純太郎はぶっきらぼうに答えた。
(通常、お互いに話がある状況のほうが少ないと思うのだけれど)
そんな正論が純太郎に通用しないことくらいはわかっている。
それにしても何をそんなに画面を睨みつけているのかと、純太郎が見つめている画面を背中ごしにのぞき見た。画面にうつしだされているのは、どうやら、表計算ソフトで作成された見積書のようだった。
「おい、気が散るから近づくな」
「さっきからずっと画面見てますよね。進んでなかったじゃないですか」
「うるせーな。今、考えてんだよ」
「もしかして、ここの列幅を変えたいんですか?」
要が後ろからその画面の一部を指で指し示すと、純太郎はびっくりした顔をして振り返った。
「なんで、わかるんだ……」
「幅が狭くて、文字列がはみ出してますからね。列の幅を変えたいのなら、ここにマウスを置いてドラッグするか、あとは……」
「こら!待て待て、勝手にいじるな!……あっ」
ずっとほったらかしにされていたマウスを要が奪って操作すると、選択されていた列は幅が広げられ、詰まっていた文字列に余裕ができた。
どうやら純太郎のしたかったことだったらしく、一瞬喜んだ表情になったが、要の顔を見て、また仏頂面に戻った。
「……いま、やろうと思ってたんだ」
「ちなみにここをダブルクリックすると適正サイズになります」
「な、んだと?うおっ!マジか」
要が流れるように操作しているその画面を見ながら純太郎は感嘆の声をあげた。
(まさか、この程度の操作で躓いてたのか)
表計算ソフトの列幅を変える操作は、要の記憶ではおそらく中学生くらいに習った初歩的な操作だ。
最初のコメントを投稿しよう!