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「じゃ、おまえ……ここに合計金額とか入れられたりするのか?」
「え?まぁ、計算式入れればできますよ」
「ちょ……ちょっとやってみてくれ!」
純太郎は慌てて座っていた椅子を要に譲った。
要は椅子に座ると、触れた場所から温かな温度を感じた。おそらく純太郎は、作業に詰まって画面を長いこと凝視していたに違いない。
画面の見積書は、純太郎の言うとおり合計金額の計算式が抜けていた。要は直接、計算式をリズミカルに入力していって、Enterキーを押すと即座に金額が表示された。
「おお!出た!おまえ、すげーな」
「はぁ……ありがとうございます」
正直、こんな程度で感謝されても嬉しくないし、困ってしまう。
「助かったー。おばちゃん帰っちゃったから操作わかるやついなくてさ」
「事務の方ですか?」
「そうそう、俺らは普段、外に出てるからパソコンなんて普段使わないしな」
純太郎は要と話しながら慣れた手つきで印刷して、プリンタから取り出していた。どうやらその先の作業は出来るらしい。
「こちらの工務店は貴方が管轄してるのですよね」
「管轄……ああ、社長ってことか」
「それならばこの程度のことは覚えておいても損はないと思いますが」
「簡単に言ってくれるよな」
純太郎は豪快に笑った。何もおかしいことなどないと思うのに、と要は首をひねった。笑いながら純太郎は立ち上がり、パソコンの置いてあった席からひな壇の席に移動した。どうやらそこが自分の席らしい。どしんと音をたてて椅子に座り、うーんと背伸びをしながらのけぞった。
「それなら、おまえが俺にパソコン教えろよ」
「へ?僕が?」
「社長の俺がどの程度覚えておけばいいのか、おまえが教えてくれよ」
あの程度のレベルから、一人前に使えるレベルになるまでなんて一体どれくらいかかるんだろう。
思わず要の顔が曇る。
「なんならバイト代くらい出してやるぞ」
「いえ、副業になってしまいますので、お金はいただけません」
「真面目だな、おまえ。そんな生き方疲れない?」
「大きなお世話です」
「まぁいいや。じゃ、決まりな。明日から会社終わったらここに来い」
「な……」
「よろしくな、先生」
要の意思は確認されないまま、純太郎にパソコンを教えてあげることが決定したらしい。
純太郎は、戸惑い言葉を失った要の表情を見ながら、また豪快に笑った。
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