第5章:世界は広かった

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 帰り際、さっきまでの仏頂面とは違い、純太郎は満面の笑みで要を見送った。  できれば顔を合わせたくない相手のはずなのに、なぜかその相手にパソコンを教えることになるという展開は、さすがの自分も想像していなかった。 (どうしてこんなことに……)  それに結局、吸殻事件のことは言い出せなかった。  訪れた目的も果たされないまま、余計な仕事が追加されたのだから、解せない。  学生の頃から、何かと他人との接触は避けてきた。兄の鼻っ柱を折るという目的だけで、兄に関係する人間とは関わりを持ったが、できれば面倒なことには巻き込まれたくない。大学四年間でも、そんな近寄りがたいオーラを出し続けた自分に唯一、容赦なく近づいてくるのは和田だ。  きっとあいつには自分のバリアが見えていないのだと本気で思ったことすらある。  とはいえ『この程度は覚えておいて損はないのでは?』などと口走った手前、要にも責任はある。  ある程度はパソコンを使いこなしてもらって、さっさと終わらせよう。  しかし、あのレベルから"ある程度"ってどれくらいかかるものなのか、予想すらつかなかった。
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