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重い空気が要にのしかかり、視線が無駄に泳ぐ。和田の視線はまっすぐに自分に降り注いでいるというのに。
「……ありがとう。おまえの言いたいことは、わかってる」
数分の硬直状態が数時間にも感じられ、要はやっと口を開くことができた。
「だったら……」
「今のままじゃいけないのはわかってる。けどおまえと住んで解決することじゃない。もう少し時間をくれないか?」
「でも」
「困ったことがあったら、一番におまえに相談するから」
自分の中では、今までなかった譲歩だと思う。
無意識に和田に頼っていた。あの夜、間違いなく自分は和田に慰めてもらいたかったのだ。既成事実まで作ってしまった。今さら、否定できるはずもない。和田は、もう弱い自分を知っているのだ。
それどころか、誰よりも、へたしたら要自身よりも要を理解している。そんな相手にこれ以上虚勢を張っても無駄なのだ。
「わかった。そのかわり、ご飯はちゃんと食べるんだよ。コンビニ弁当はほどほどにね」
「あ……」
要が手に下げていたコンビニ袋の中身はすでに見られていた。
最近は、食事もめんどくさくなってコンビニで調達したり、食べなかったりしている。
「いつでもご飯持っていくから」
「ん、ありがとう」
「じゃあ、俺、いくね。おやすみ」
「おやすみ」
軽快に階段をおりていく和田の足音を背中で聞いて、要は部屋に入った。
台所に手にしていたコンビニ袋を置いた。食べる気なんて最初から失せていた。
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