第5章:世界は広かった

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 要の、純太郎という人間を見る目が変わると、彼についての新しい発見は毎日あった。  そもそも工務店で働いている人間は、普通なら中学校や高校、大学に通っている世代の未成年が多い。純太郎は、登校拒否や自閉症の子供を引き取っては体力と技術を身につけさせて精神的に強い男に仕立てあげた。これまで多くの職人を独立させていて、誰からも親方と慕われ、何より職人思いの親方だということは周囲が認めていた。  風俗に行くのは、成人した後輩たちへのご褒美だったり、世話してあげたことがある人間が勤めている店舗だったり、それなりの理由がある。もちろん根っからそういう店が嫌いではないだろうが、そうした付き合いが多かった。  そして、要は工務店の人は純太郎以外、誰も煙草を吸わないという事実を知った。喫煙をする純太郎はそんな周囲を配慮して、仕事中も喫煙しない。その事実は、同じ総務の五条雛子から、雑談程度に聞いた。  昔、ふざけて本人が言っていたらしいのだが、喫煙するのは酒を飲んでいる後と、セックスをした後だけ、らしい。 (じゃあ、なんであのとき否定しなかった?)  新人である自分が指摘して、事が大きくなることを避けるため?  自分が負うことで、問題が表面化しないため? (あいつのことが気に食わなかったから、弱みを握れて鬼の首でもとったかのような気分だったなんて)  とにかく、純太郎の器の大きさが、とにかくでかいことを知り、要は胸が締め付けられる思いだった。でも、これだけは、はっきりさせなくちゃいけない。  要は、工務店の人間が多く残っていた日を選んで切り出した。
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