第6章:気づいてしまった気持ち

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「みなさんにお話があります」 「なんだよ、急に」  純太郎は首をかしげ、周りにいた人たちもめんどくさそうにこっちを見た。  元から好かれていないことは、わかっている。それも全部自分が蒔いた種だ。 「すみませんでした」 要は深々と頭を下げた。 「なんだ?なんだよ、気持ち悪いな」  頭を下げたまま、要は言葉を続けた。 「以前、僕は会社に落ちていた大量の吸殻を勝手に皆さんの仕業と決めつけるという失礼な行為をしました」 「あー、あったな、そんなこと」 「皆さんが喫煙されないことを知って、もっと早くに謝罪しなければいけませんでした。本当に申し訳ありません」  しばらく、しんと静まり返る。  自分のしたことはおそらく伝わっているだろう。だから自分に心を許す気もなければ、優しく迎える気持ちも持てない。けれど、自分がここに来てから、このことで責めてくる人は誰もいなかった。 「わかったから、要、顔をあげろ」  純太郎に、ぽんと肩を叩かれて、そっと顔をあげると、周囲の人たちは、さっきよりも優しい目をしてこちらを見つめていた。 「少し、いいですか?」  その人は、職人の中でも純太郎の次に偉い人らしく、確かアキラさんと呼ばれている人だった。純太郎はアキラを信頼しているらしく、現場を任されたりしているのも見かける。 「はい……」 「きっと、要くんは俺らを見た目で決めつけたんだと思うけどさ、若いやつらはそういうの敏感なんだ。 いじめられて家から一歩も出なくなって、ここにきた奴らも多いし」  黙って聞いていた。  自分に対して冷ややかな目を向けていた理由が今ならわかる。そういう人間と自分は同じことをしたのだ。見た目で判断してしまったのだ。いくら親方である純太郎にパソコンを指導するために来て、『よろしくおねがいします』だなんて言っても、そんなやつを受け入れるには抵抗があるだろう。 「自分自身も思うところがあります。ここにいる皆さんはきちんと真面目に仕事をしている人たちでした。本当に失礼なことをしてすみませんでした」  もう一度頭を下げる。
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