第6章:気づいてしまった気持ち

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 すると要の前にいた若い職人たちも、同じように頭を下げた。 「俺らも、大人げない態度とってすみませんっした」 「親方にパソコン教えに来てくださってるのに」 「すみません。お世話になってるのはこっちなのに」 「いえ、そんなことは……」  お互い顔を見合わせて、頭を下げ合っていると、パチン!と両手を合わせた音がして、振り向くと、純太郎がにこにこと、自分たちを見ていた。 「よーし、もうこの話は今日で終わりな」  純太郎がその場を収めてくれた。  ちょうど帰るところだった職人たちは、頭を下げて事務所を出て行った。帰りがけに手を振ってくれる者もいた。  その場には、純太郎と要だけが残された。 「すっきりしたか?」 「……はい」 「あいつらの気持ちもわかるから、俺からは何も言えなかった。がんばったな、要」 「本当に……その……」 「あー、もういい。しつこいな。俺にとっては過去のことだ。おまえも忘れろ」  要の頭を純太郎の大きな手が、くしゃりと撫でた。 「本当に、よくがんばった」  よく事務所で見かける光景。純太郎が若い職人を褒めるときにこうする。  子供じゃあるまいし。そう思っていた。  けれど、今はなんだか嬉しい。この人に褒められるということが、どれほどすごいことか。  まるで翼が生えたみたいに。ただの自分が、空を飛べるようになったかのように。  自分はまだ、できることがある気がする。  自分はまだ、変われる気がする。
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