第6章:気づいてしまった気持ち

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 あれから森中工務店の面々とは、わだかまりがなくなった。  『要さん』と呼ばれ、挨拶もしてくれるようになった。純太郎はあいかわらずだったけれど、要から純太郎にいろいろと聞くことが増えた。  その日はたまたま、要の仕事の話になった。 「で、おまえは、普段、会社で何してるわけ?」 「えっと、恥ずかしい話……仕事もらえてなくて」 「は?どういうこと?給料ドロボーってこと?」  昔の自分ならそんな言葉を聞いたら、怒りだしていただろう。けれど、今なら素直に受け入れられる。事実、自分は”給料ドロボー”と称するにふさわしいくらい、仕事らしい仕事をしていない。 「午後は、書庫で時間を潰しています。浜村課長に"おまえの担当は書庫だ"と言われて……」 「ふーん。あそこの書庫、確かに雑多だもんな」  純太郎はそのまま、うーんと唸った。 「俺さ、浜ちゃんとはそれなりに付き合いも長いわけよ」 「そうみたいですね」 「浜ちゃんは、意味がない仕事をおまえに託さないと思うぜ」 「え?」 「担当ってのは、なんでも好きにしていいってことじゃねーの?」 「……」 「当然、サボってもいいんだけどな」  要は突然立ち上がった。 「じゅ、純太郎さん、俺……」 「ま、そういうこった。ずいぶんと無駄な時間過ごしたんじゃねーの?おまえ。もったいねーな」 「はい!明日から巻き返します」  要は、そのまま事務所を飛び出して家に帰り、すぐにパソコンを立ち上げ、企画書を起こした。  浜村に初めて書庫を任されたときの言葉を思い出した。  『おまえがここを自由にしていい』  そのときは、その言葉の意味を理解しようともしなかった。先の見えない仕事を押し付けられたという意識しかなかった。  そうではなかった。最初から、浜村はこの書庫を『自由にしていい』と言ってくれていたのだ。そこに仕事はあったのだ。  次の日、持参した企画書を持って、いろんな部署をまわり、ヒアリングをした。  もちろん同じ総務の人間にも声をかけた。  すべては、書庫を大改造するために。今よりも良くするために。
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