第6章:気づいてしまった気持ち

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 その後、企画書は通った。  浜村の承認と、社長の決済が下りて、一部書庫の改造工事が必要となり、森中工務店にその企画書の趣旨を説明した。  職場で会う、純太郎は心強かった。要のやりたいことをすべて汲みとって動いてくれた。若い職人たちも、純太郎の指示でテキパキ動いてくれた。彼らが仕事をする場面を見たのは、初めてだったが、思っていた以上に仕事が正確で丁寧だった。  他には、散らかりがちな書庫の棚を改造し、在庫管理しやすくするためにバーコードを導入した。  そのプログラムはすべて、要が組んだ。パソコンが苦手な総務の女子たちが使いやすいように、画面の見やすさにもこだわった。そして、改造後の書庫は社内でも好評だった。 「要、おつかれ」  お披露目が終わり、出来上がった書庫を見つめていると、後ろから浜村に声をかけられた。 「課長、すみませんでした。ずいぶんと遠回りしてしまいました」  浜村に頭を下げ、見上げると浜村は優しい笑顔だった。 「純太郎さんを味方につけるとか、ずるいよな」 「そんなつもりでは……!」 「ははは、わかってる。純太郎さんも言ってた『要が頑張ったからだ』って」 「純太郎さんが?」  浜村は、要に向かって手を差し出した。 「要、会社の中でもっと良くしていきたい案件はたくさんある。手伝ってくれ」 「はい!」  その手をぎゅっと握り締めながら、目頭がじんわりと熱くなってきた。  ずっとずっと浜村の役に立ちたいと思っていた。それなのに自分が子供なばっかりに、意固地になってかえって迷惑をかけた。今ならわかる。浜村は最初から自分の目が覚めるのを待っていてくれたのだ。  浜村とは、きっと大丈夫だ。  そして、純太郎が自分の背中を押してくれた。  お礼を言いたい。いますぐ、純太郎に会いたい。はやる気持ちのせいか、いつしか走りだしていた。  また褒めてくれるだろうか?頭をなでてくれるだろうか?がんばったなって言ってくれるだろうか?  この勢いで純太郎さんのパソコンも、もっと上手く教えられるようになりたい。  そしたら、きっと『わかりやすかった』って笑ってくれるんじゃないか。  森中工務店の事務所のドアはいつも鍵があいている。  勢いよく、扉を開けた。  パソコンの前には、純太郎はいなかった。
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