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「おー。要」
「純太郎さん!」
純太郎は帰り支度をしていた。
おかしい、いつもならこれからパソコンの電源をつけるのに。
どこかへ行くのだろうか?予定でもあるのだろうか?
「書庫の改造、好評でした!ありがとうございます」
「俺は何もしてねーよ。注文もらったから仕事しただけ」
「純太郎さんのおかげです。課長ともきちんと話ができました。本当にありがとうございました」
「ほいほい、よかったんじゃねーの」
純太郎の態度の変化に気づかない要ではない。
(なんだろう、この距離感)
意図的に離されている二人の距離。以前のような親しみはない。どちらかといえば、他人のようなよそよそしさ。
あの、今日は……?」
「あー、もう明日から来なくていいわ」
「え?何言って……純太郎さん、教えてたこと、出来てないじゃないですか」
「ん」
純太郎は机の上の紙キレを要に渡した。そこには、つい最近まで作成しようとしていた見積書がきれいなフォーマットで仕上がっていた。
「え?」
「ありがとな。おまえのおかげ」
「これ、純太郎さんが?」
「おう、これくらいできるようになったっつーことだ」
おかしい。昨日まで、文字すらろくに打てなかったのに?
計算式なんて、何度教えても理解してくれなかったのに?
「他に、やることは?何か、新しいこと教えますよ」
「いらねぇ」
「けど……」
「要、もうここには来るな」
言葉を失った。
なぜ、こんなに急に終わりが訪れたのだろう。
(必要なくなったから?)
何かを言おうとしても、言葉が出ない。
(なんで?ここに来てはいけないの?)
「俺も帰るから、おまえも帰れ」
「純太郎さ……」
「おつかれ」
その扉は閉められた。純太郎が鍵をかける背中を見つめていた。
それはまるで、純太郎の心にも鍵がかけられたような気がした。
純太郎の遠ざかっていく足音を、要は身動きできないまま、聞くしかできなかった。
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