第6章:気づいてしまった気持ち

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「おー。要」 「純太郎さん!」  純太郎は帰り支度をしていた。  おかしい、いつもならこれからパソコンの電源をつけるのに。  どこかへ行くのだろうか?予定でもあるのだろうか? 「書庫の改造、好評でした!ありがとうございます」 「俺は何もしてねーよ。注文もらったから仕事しただけ」 「純太郎さんのおかげです。課長ともきちんと話ができました。本当にありがとうございました」 「ほいほい、よかったんじゃねーの」  純太郎の態度の変化に気づかない要ではない。 (なんだろう、この距離感)  意図的に離されている二人の距離。以前のような親しみはない。どちらかといえば、他人のようなよそよそしさ。 あの、今日は……?」 「あー、もう明日から来なくていいわ」 「え?何言って……純太郎さん、教えてたこと、出来てないじゃないですか」 「ん」  純太郎は机の上の紙キレを要に渡した。そこには、つい最近まで作成しようとしていた見積書がきれいなフォーマットで仕上がっていた。 「え?」 「ありがとな。おまえのおかげ」 「これ、純太郎さんが?」 「おう、これくらいできるようになったっつーことだ」  おかしい。昨日まで、文字すらろくに打てなかったのに?  計算式なんて、何度教えても理解してくれなかったのに? 「他に、やることは?何か、新しいこと教えますよ」 「いらねぇ」 「けど……」 「要、もうここには来るな」  言葉を失った。  なぜ、こんなに急に終わりが訪れたのだろう。 (必要なくなったから?)  何かを言おうとしても、言葉が出ない。 (なんで?ここに来てはいけないの?) 「俺も帰るから、おまえも帰れ」 「純太郎さ……」 「おつかれ」  その扉は閉められた。純太郎が鍵をかける背中を見つめていた。  それはまるで、純太郎の心にも鍵がかけられたような気がした。  純太郎の遠ざかっていく足音を、要は身動きできないまま、聞くしかできなかった。
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