第6章:気づいてしまった気持ち

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 工務店に立ち寄らなくなって一ヶ月ほどが過ぎた。  あれから何度も工務店に行こうかと思ったが、結局できなかった。  もし、あの拒絶された日から、純太郎との関係が変わってしまっていたら、それを認めるのが怖い。  毎日考えるのは純太郎のこと。彼の言葉を頭の中で反芻しては咀嚼する。ふとした時間は、一緒にいた時間を思い出す。純太郎と話していた会話を思い出しては、今になって言葉の意味に気づいたりして胸が熱くなる。純太郎が自分に笑いかけてくれたり、頭を撫でてくれたり、褒めてくれたり、そんなひとつひとつの動作に心が躍る。  純太郎が『要』と優しい声音で呼ぶ。特別なことではないはずなのに、純太郎に呼ばれれば名前に淡いオーラが纏って耳に届く。こんなにも胸が焦がれるのは、なぜだろう。 「マジでー!」  いつものように出勤した職場。早朝のフロアに響き渡る声。廊下まで聞こえた、覚えのある声。  純太郎の声……。  まるで主が帰ってきたと知った飼い犬のように、胸が高鳴り、歩く足が早まる。  扉をあけて飛び込んできたその姿は、胸に描いていた純太郎そのものだった。 「あ、おはよう。要」 「おはよう……ございます」  浜村と話していた純太郎と目が合った。挨拶を、と口を開いた瞬間、その視線は外された。 「じゃ、また作業終わったら来るわ」 「はい。夕方には目処がつきそうですかね?」 「誰に言ってんだ?浜ちゃん」 「ははは、失礼しました」  純太郎は、自分に向けてくれていた見覚えのある笑顔で、自分の名前を呼んでくれた聞き覚えのある声で、浜村と談笑していたが、結局一度も、要を見ないまま自分の横を通り過ぎて、部屋を出て行った。 (な、んで……?)
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