第6章:気づいてしまった気持ち

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「あの、今日って森中工務店さん、作業ありましたっけ……?」  自分の席に戻る浜村の背に声をかける。 「ああ、急遽来てもらったんだ。会議室のオートロックが故障してさ。森中さん、専門じゃないけど直せるか試してみるって」 「そうですか」 「いくら森中さんでも厳しいかもなぁ。あ、要、午後からの会議予約の部屋変更手配しておいて。各部署に連絡な」 「はい」  浜村の言葉は要の頭に入ってこなかった。会議室のオートロックが故障していることよりも、何よりも気になること。  どうして?なんで?が頭をぐるぐると駆け巡る。  気のせいではない。今の自分は純太郎に避けられている、もしくは拒絶されている。  あんな風にあからさまに視線をそらされるなんてこと、あるだろうか。 (僕は、純太郎さんに、何をしたんだろう)  その日一日、要は集中力を欠いた。  結局、朝、浜村に指示された内容はぽっかりと抜け落ち、突如使えなくなっていた会議室に他部署の人間が混乱した。入社以来の初めての要のミスに、周囲は「らしくないね」と逆に心配するほどだった。日々の行いの成果だろうか、要が謝りにまわると、どの部署も笑顔で「次は気をつけろよ」と返してくれた。こんなときにも、自分は会社において、以前のような浮いた存在ではなくなったと実感させられる。  だからこそ、純太郎に感謝しているし、あの日々をなかったことにしたくない。  拒絶されるなんて、自分には耐えられない。  何度か、会議室に用事があるふりをして通りかかった。  慣れない作業のせいか、渋い顔をして設計図を眺める純太郎を遠くから見つめていた。  純太郎の隣りにいた人は見覚えのある顔だった。確か、工務店の人で何度か会話したことがある。 要と目が合うと会釈してくれた。要も、慌てて頭を下げる。  純太郎のように目も合わさないということはなかったところを見ると、純太郎の行動だけが、やはり極端に感じる。以前のように行き過ぎた行動、軽率な行動ではないはずだ。  謙虚に考えた末、こちらに失礼なことがあれば謝りたいと思っている。  仕事の面で、森中工務店との良好な関係を築いていくためにも、避けられる理由をはっきりさせたい。 要は一日そればかりを考えていた。
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