第6章:気づいてしまった気持ち

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 その後、会議室のオートロックは使えるようになったと聞いた。 (専門じゃないと聞いていたのに)  朗報を聞いて、社長が満面の笑みで浜村の元にやってきた。 「聞いたぞ。やるな、森中んとこの若いの」 「ええ、まさかこんなに早く直してくださるとは思いませんでした」 「本来は一週間くらいかかるはずだったんだろ?修理代金は弾んでやれ」 「わかりました」  社長を始め周囲の人たちが口々に森中工務店のことを褒めるので、要はまるで自分が褒められたように嬉しかった。そもそも、自分は森中工務店との付き合いは誰よりも短いというのに、あの工務店に通った日々が要に親近感を感じさせているのだろう。  けれど、今は避けられているという事実を思い出し、心が痛む。 (このままでは終わりたくない)  要は仕事を早めに切り上げ、会議室に向かった。  会議室の前では浜村と純太郎が談笑していたので、向こうから見えないよう、壁際に隠れた。 「すごいですね、まさか直しちゃうとは」 「わかりやすい構造だったからな。あまりにも複雑だったら俺の頭じゃ無理だったわ」 「修理費、ちゃんと請求してくださいね?」 「いいって、いつもおたくの社長から十分過ぎるほどもらってんだよ」 「それなりの仕事してるんですから、当然です」  穏やかに談笑している二人の間に割ってまで入るつもりはない。  浜村が離れていくのを見送ってから、要は純太郎に近づいた。要自身も、なぜこんなに必死なのかわからない。ただ、このタイミングを逃せば、純太郎とは会えなくなるような気がした。  一人になった純太郎に声をかけようとした瞬間、会議室から工務店の人が出てきて、要は伸ばしかけた手を引っ込めた。 「片付け、終わりました」 「よし、じゃ帰るか。軽トラどうした?」 「搬入口に待たせてあります」 「ん、ありがとな」  純太郎が工務店の人たちと話す光景は何度も見てきた。ただの会話のはずなのに、ひとつひとつの言葉を注意して聞いてみると純太郎の優しさを感じて、要の心が温まった。ふざけあったり、からかったりしながらも、親方と呼ばれるにふさわしい包容力を感じる。  今の表情は、さっき自分を拒絶した純太郎ではなかった。自分の知っている優しい純太郎だった。 「あの!」  要の声に、純太郎とその人は顔をあげた。純太郎の顔は、要と目が合った瞬間に曇った。
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