第6章:気づいてしまった気持ち

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「要」 「はい?なんですか?」 「料理、どーすんの?」 「あ、えっと……」  目の前にメニューが広げられていることに気づき、慌てて視線を落とす。 「なんだよ、考えてたんじゃねーのか。じゃ、テキトーに頼むぞ」 「お、お願いします」  純太郎が店員にぽんぽんと注文する料理名も、要の頭には入ってこなかった。 (僕はこんなにダメな人間だったんだろうか)  もっとスマートに言いたいことが言える人間だと思っていた。  理論的に正しいと思えば、すぐに切り出していたし、間違っていればすぐに文句も言えた。  それなのに純太郎のこととなると、途端に混乱する。  こんなにも自分は臆病だったのだろうか。  ぐるぐると思案しているうちに、料理は運ばれてきて、純太郎は箸をのばす。  純太郎が取り分けてくれた料理が目の前にあると気づき、慌てて箸をとる。  考え事をしては現実に戻る、を数回繰り返していた。 「元気そうだな」 「え?」  純太郎に話しかけられ、要は顔をあげた。 「仕事、うまくいってるみたいじゃねーか。浜ちゃんに聞いた」 「あ……その……」 「安心した」  もしかして心配してくれていたのだろうか。  穏やかに笑っている純太郎の表情を見ていると、胸が締め付けられる。  言わなくちゃいけない。自分の言葉で。 「純太郎さんの……おかげです」 「は?俺?」 「気持ちが楽になれたというか、考え方が変わったというか」  言いたいことの、ほんのひとかけらしか言えていないが、これが精一杯だった。 「なんだぁ、それ。俺はおまえにパソコン教えてもらってただけだよ。出来の悪い生徒だったけどな」 「そ、そんなことは……ありますけど」 「はっはっは!おまえ、少しは気を使えよな」  豪快に笑う純太郎を見て、要はあっけに取られてしまった。  自分の気持ちを素直に吐露すると、こうして純太郎は豪快に笑ってくれた。  あのときもそうだった。着飾った言葉や、心のこもっていない言葉に純太郎は興味を示さない。そういう人なのだ。
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