第6章:気づいてしまった気持ち

14/14
前へ
/118ページ
次へ
「それでも自分が変われたのは、純太郎さんのおかげです。ありがとうございました」  要は座ったまま、深々と頭を下げた。とにかく一番伝えたかったのは、これなのだ。  それさえ伝われば何も言うことはない。 「やめろ、気持ち悪い。そーゆーの苦手なんだ俺は」 「でも……」 「要、これっきりにしような。俺はおまえんとこに出入りしてる業者なんだ」  これっきりという純太郎の言葉が、要の心に刺さった。 「俺、頭悪いから後先考えずにあんなこと頼んだけどさ、よくねーよな。おまえと俺は、業者と客なんだ」 「何言ってるんですか」 「こうやって二人で会うこともナシだ。工務店にも来るな。おまえのためだ」 「関係ない……と思います」 「関係あるに決まってんだろ。おまえといて楽しかった。うちの若いやつらも言ってた。けど、これっきりだ」  拒絶されたあの行動の意味が、まるで氷が水になるかのように、ゆっくりと解けていく。  自分のことしか考えていなかった要とは対照的に、純太郎は周囲のことを考えていた。  客と業者の関係を壊しかねないほどに、自分が純太郎を慕っていた事実に、純太郎は気付いていた。    だから、遠ざけた。 「嫌です」 「は?」 「僕は純太郎さんのことをもっと知りたいです。もっとたくさん話がしたい」 「そりゃ光栄なことだが、俺みてーなもんから学ぶことなんてねーよ。おまえは俺よりもずっと頭いいんだし」 「そうじゃありません」 「いい加減に……」 「僕は、あなたのことが好きなんです」  その言葉は、するりと出てしまった。あまりにも自然に出てしまったせいで、自分自身も我に返った。 (今、僕は……なんて言った?)  目の前の純太郎もぽかんとあっけにとられていた。  ふたりとも目を合わせたまま、数秒間、時間が止まったかのように思えた。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2082人が本棚に入れています
本棚に追加