第7章:優しさに揺れるこころ

3/14
2073人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
「おまえの兄と浜ちゃんのことは知っている。だから世の中でそういう人間がいることはなんとも思わない。けど、俺は普通に女が好きだし、男にそういう興味は持たない」 「……」 「おまえが俺にそういう相手として期待してるなら、悪いが諦めてくれ」  あまりにもショックが大きいと、人は冷静になれるのかもしれない。純太郎の言葉は、すんなりと理解できた。  かつて、最愛の兄に自分の気持ちを告げたことがあった。けれど受け入れてもらえることはなかった。体は繋がっても、そこにお互いに同じ方向を向いた気持ちは存在しなかった。  それ以来、誰かに好意は寄せられても、自分から誰かを好きになった経験はない。  今日、自分の気持ちに気付いた。相手に告げた。そして拒否された。なんという一日だろう。恋が始まっていたのことに気付いた直後、終わりを迎えるなんて。 「男が男を好きになることが悪いだなんて思わねーけど、俺はそうじゃなかった。それだけのことだ」 「はい……」 「好かれるってのは悪い気はしねーけどな。おまえの場合は、風邪みたいなもんで一時的なもんじゃねーか?」 「……」 「一緒にいた時間が長かったから、情が芽生えただけだろ?今日のことは忘れてやるから安心しろ」 (忘れる?気持ちを告げたことを?)  なかったことになって、できっこない。自分は純太郎のことが好きであると、気付いてしまったのに。むしろ確信してしまったのに。  けれど、相手に拒否されるということが、こんなにも傷つくことだとは思わなかった。たしかに要自身も、今のこの状況は夢だと思いたい。けれど……。 「俺、タクシーで帰るけど、一人で帰れるな?」  要の心とは裏腹に、純太郎の中では終わっていることなのだ。ドライな対応に、現実だと実感する。 「……はい」 「じゃあな、また会社で会ったらよろしくな」  純太郎はそのまま立ち去った。  要はその遠ざかっていく背中を見つめていた。いつまでも。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!