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「おまえの兄と浜ちゃんのことは知っている。だから世の中でそういう人間がいることはなんとも思わない。けど、俺は普通に女が好きだし、男にそういう興味は持たない」
「……」
「おまえが俺にそういう相手として期待してるなら、悪いが諦めてくれ」
あまりにもショックが大きいと、人は冷静になれるのかもしれない。純太郎の言葉は、すんなりと理解できた。
かつて、最愛の兄に自分の気持ちを告げたことがあった。けれど受け入れてもらえることはなかった。体は繋がっても、そこにお互いに同じ方向を向いた気持ちは存在しなかった。
それ以来、誰かに好意は寄せられても、自分から誰かを好きになった経験はない。
今日、自分の気持ちに気付いた。相手に告げた。そして拒否された。なんという一日だろう。恋が始まっていたのことに気付いた直後、終わりを迎えるなんて。
「男が男を好きになることが悪いだなんて思わねーけど、俺はそうじゃなかった。それだけのことだ」
「はい……」
「好かれるってのは悪い気はしねーけどな。おまえの場合は、風邪みたいなもんで一時的なもんじゃねーか?」
「……」
「一緒にいた時間が長かったから、情が芽生えただけだろ?今日のことは忘れてやるから安心しろ」
(忘れる?気持ちを告げたことを?)
なかったことになって、できっこない。自分は純太郎のことが好きであると、気付いてしまったのに。むしろ確信してしまったのに。
けれど、相手に拒否されるということが、こんなにも傷つくことだとは思わなかった。たしかに要自身も、今のこの状況は夢だと思いたい。けれど……。
「俺、タクシーで帰るけど、一人で帰れるな?」
要の心とは裏腹に、純太郎の中では終わっていることなのだ。ドライな対応に、現実だと実感する。
「……はい」
「じゃあな、また会社で会ったらよろしくな」
純太郎はそのまま立ち去った。
要はその遠ざかっていく背中を見つめていた。いつまでも。
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