第7章:優しさに揺れるこころ

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 そのあと、どうやって駅についたのか、覚えていない。終電にぎりぎり間に合ったらしいことは覚えている。日々の習性が身についているからなのか、家まで無意識に歩いてきたようだ。  気づけばマンションの前にいた。二階の自室は明かりがついておらず、暗い部屋が静かに主を待っている。そして一階の和田の部屋には明かりがついていた。  あれ以来、和田とは会っていない。  以前より定期連絡であるLINEも減っていた。きっと和田が忙しいのだろう。いずれ、そうなるだろうと思っていた。誰だって自分に余裕のあるときにしか、人のことを考えられないものだ。自分の世話を焼くのだって、そのときたまたま自分に余裕があったからだ。 (じゃあ、もう和田は俺のこと……)  大学のときは、要が頼んだわけではないけれど、和田はいつも気にかけてくれた。あのときは一緒にいたから。  そうだ、純太郎の言うとおり、和田も自分に対して情が湧いただけなのだ。一度だけ体を繋げてしまったのは、あのときはまだ自分のことが好きだったから。きっと今はそんな気持ちがなくなった。だから連絡もしてこないのだ。  自分が好意を持った人は、自分を好きになってはくれない。兄も、そして純太郎も。  だから自分はもともと一人なのだと、わかっていたはずなのに、それが寂しいと思うときが来るなんて思わなかった。今、自分は誰からも愛されていない。一人とはそういうことなのだ。 (和田も、自分から離れてしまった)  思えば和田に甘えてばかりだった。和田に優しくされることが当たり前だと思っていた。そんな自分が今まで和田に想われていたことが奇跡なのだ。自分を想ってくれていたのは、和田だけだったのに。  押し寄せる孤独の波にのまれてしまいそうで怖い。誰でもいいから抱き締めてほしい。そこに気持ちがなくてもいいから。  最後にもう一度だけ、和田にわがままを言いたい。そんなことを考えるのは、最低だとわかっている。それでも今、どうしても和田に会いたい。  要は携帯を取り出して、和田に電話をかけた。和田が電話に出たらなんて言うつもりなんだ? いっそ出てくれなくてもいい。明日になって、何の用だったか、聞かれたら、用事なんてなかったって言えばいい。けどあの和田の優しい声が聞きたい。"要"と呼ばれたい、それだけだった。
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