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「もしもし、要?」
「あ……」
ツー・コールくらいでいつもの優しい和田の声が返ってきた。
「どうしたの?何か、あった?」
「えっと……」
「あれ?要、もしかして俺んちの前にいる?」
「あ、いや……」
和田の扉の向こうでバタバタと走る音がして、すぐに扉が開いた。布団から飛び出してきたのだろうか、和田は半パンにTシャツに風呂あがりなのか髪は湿っていた。要の顔を見ると、いつものようにくしゃりと笑った。
「おかえり。今、帰り?遅かったね」
「うん……」
「びっくりした。要が電話くれたの、初めてじゃない?」
「う、ん……」
我慢しようとしたけれど、ダメだった。和田の顔がいつもと同じように柔らかくて、和田の声がいつもと同じように甘くて。胸が締め付けられて、苦しくなって、体から湧き出るように涙が溢れてきた。
携帯を耳に当てたまま、要は涙をぽろぽろと滴らせた。
「要…!?」
「なんか、僕……おかしいんだ。泣くとか……ありえないよね」
和田の手が要の腕を引き寄せ、その胸に閉じ込めた。扉がバタンと音を立てて閉まったのを、要は和田の胸の中で聞いた。
「何が、あったの。要」
「何も……ない……」
「要が泣くなんてよっぽどのことだよ!」
「違う……僕が勝手に……」
「勝手に、何?」
「あの人のことを……好きになってふられただけ」
それだけ告げると、かろうじてこぼれるだけだった涙は、いよいよ決壊して溢れだした。声を押し殺して和田の胸で、ひたすら涙を流す。涙は後から後から止めどなく流れる。そんな要を抱き締めて、和田は頭を撫で続けた。
散々涙を流したあとで、和田はそのままぽつりとつぶやいた。
「今、後悔してる。もっと俺が要を捕まえてればこんなことにならなかった」
「おまえだって連絡……してこなかっただろ」
「要をね、見かけたんだ。そしたら要、会社の人と話してて元気そうだったから勝手に安心してた。けど違ったんだね」
「え……」
「もう我慢するのはやめる」
要を抱く腕が一層強くなる。
「好きだよ、要。ずっとずっと前から」
「和田……」
和田の気持ちは、ちっとも変わっていなかった。こんな自分のことを今までと変わらず想っていてくれていた。
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