朝露コーヒー店

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長い月日がかかったが、ようやく、僕の傷も修復された。 これでもう、風が吹いても痛くない。 雨が降っても冷たくない。 雪が降っても寒くない。 「よし」 青年は、最後に、僕の額に掲げられた斜めの看板を下ろし、どこかへ行った。 しばらくして、朝焼けの波の中、その看板を小脇に抱えて戻ってくる。 朝焼けサーファー。 その波しぶきが弾け落ちる中、彼は看板を僕に見せてくれた。 「朝露コーヒー店」 同じ名前が、きれいに書き直されていた。 それを、僕の額に再び掲げると、青年は誇らしげに微笑んだ。 「父さんが昔、ここでコーヒー店を開いてるって聞いたことがあってさ」 僕に語りかけてくれている。 「父さんと母さんが別れたのは、小さい頃だったから顔は覚えてないんだけどね」 僕の壁を優しく撫でると、屋根の上に小鳥が止まり、チチチとさえずる。 「僕の知らないうちに、死んじゃって」 朝露が、小鳥の声に合わせて、ぱりんと割れた。 「で、僕も知らないうちに、コーヒーが好きで」 朝焼けの甘い香りがする風が、青年の前髪をふっと撫でる。 「偶然にもお前を見つけて」 屋根から飛び立つ小鳥達が、朝焼けの海へ飛び込んでいく。 「これからよろしく」 青年が扉を開けると、鈴の音が砕けて降った。
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