朝露コーヒー店

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青年は、毎日、毎日、少しずつ、少しずつ。 丁寧に僕の傷を修復していった。 中には、とても深い傷もあったので、修復に、まる一日かかることもあった。 時間がかかり、とても根気のいる作業だった。 すると青年は、寝袋を持参して、僕の中で寝泊りをするようになった。 朝から、晩まで、一日中、青年は僕に寄り添っていた。 おかげで、寂しくなんかなかった。 僕を覆っていた蔦がなくなっても。 ある日、嵐が、僕達を襲った。 ごうごうと渦巻く空から浴びせられる雨と風。 容赦なく僕の壁や屋根を震えさせる。 彼はビニールシートを僕にかぶせたり、なんとか守ろうとしてくれたのだけれど、だめだった。 せっかく修復してくれた傷も、また、元通りになってしまった。 ああ、やっぱり、僕は、みじめで、みっともない姿がお似合いなんだ。 そんな僕の姿を見上げた青年は、てっきり落ち込むのかと思いきや、 「またゼロからやり直しかぁ」 とおかしそうに笑った。 大きく背伸びをし、大工道具を手にすると、鼻歌を歌い始め、また傷の修復作業にとりかかった。 嵐なんて、青年にとっては大したことでななかったのだ。 日々の努力が無駄になったとしても。 この状況さえも楽しんでいる彼を見て、僕の中で、どうしようもないくらいの、明るくてあたたかいものが生まれる。 それは、溢れだしていく。 道を塞いでいた茨が消え去り、どんどん開けていき、突き進むと眩しいばかりのものが待ち構えているようで、声があるなら、歌っていたのかもしれない。
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