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あわててうつむき、涙をぐっとこらえてから、巽は顔を上げた。
「俺らは……明日の英語の発表の準備で教室に居残ってて。そしたら誰とはなく、怪談をし始めて、それで肝試ししようって話になって……」
言いながら、あの教室で、みんなでハンバーガーを食べながらしゃべっていたことがひどく遠い出来事のように感じられた。
巽は踊り場で起こったことも話した。
話を聞き終わって、横山はため息をついた。
ため息と共にゲップのような音が喉の奥から漏れた。
「ああ、俺も聞いたことがあるなあ。この学校の怪談。踊り場の鏡の話に、廊下の鬼ごっこ……だったか」
懐かしむように目を細めてから、横山は大きな咳払いを一つした。
「まあ、怪談なんてもんは、どこの学校にもある。眉唾もんだな。それに、少なくとも加藤はそんな足音なんか聞いてない、と言っていたよ」
横山の言葉に、巽は少しほっとしながらうなずいた。
「そうですか。俺も足音は聞いてないんです。矢野と紺野が聞こえるって騒いでただけで」
「そうか。なるほどね。それで、紺野は矢野の足音に驚いて階段を踏み外したんだったな。……で、お前はその時どこにいたんだ?」
巽はぼんやりと横山の顔を見上げた。
心なしか、横山の声が固くなったような気がした。
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