モノローグ

2/2
前へ
/283ページ
次へ
猫の宮、という少し珍しいこの名前の由来は、猫をまつる小さな神社が市の北東にあるからだという。   驚いたことに、このささやかな神社、なんでも1000年ほどの歴史があるとか。   市の人口は80万人ちょっと。   都心へのアクセスは悪くないため、ベットタウンとして最近少し注目されている。 しかし、きちんと整備されているのは海沿いの新興地区だけ。 一歩内陸側に足を踏み入れれば、全く違った顔つきの街が広がっている。   街を覆うのは、葉脈のように広がり、曲がりくねる細い道。 都市計画なんて言葉をあざ笑うかのように、無秩序に家が立ち並ぶ。    そびえる高い塀に囲まれて、全く見通しのきかない十字路。 国道を外れるといきなり未舗装の道が始まり、気が付けば行き止まりなんてことは日常茶飯事。 加えて、この街には不思議と、似た外観の辻が多い。 そのため、どの角を曲がれば目的地にたどり着くのか、住民ですら迷うことがあるという。 そんな有様だから、外からの来訪者は、この迷路のような街の路上でしばしば途方に暮れる。 立ち止まり、自分が今来た道を振り返る。  戻るべきか?  それとも、進むべきか。 そして次の一歩を踏み出す。 その一歩が正しい道へと通じているものなのか、思いまどいながら……。 ああ、 機会があれば、あなたもぜひ訪れてみてほしい。 人も、人でないモノも迷わせてしまう、この猫神の街に。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加