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「あ、あ、あ……!」
ものすごい形相で、何かを言おうと必死に口をぱくぱくさせているが、なかなか言葉が出てこない。
「何だ? なんかあったのか?」
島田が言うと、矢野は説明するのをいったん止め、不安げに自分の後ろを振り返った。
と、廊下の奥から、加藤の困惑した声が聞こえてきた。
「ちょっとー、なんで逃げるのー? 矢野ー。」
その声にかぶせるように紺野の切羽詰まった声、そして、ばたばたともつれるような足音と共に、今度は紺野が姿を現した。
いつもの彼女らしくなく、髪を振り乱し、目を大きく見開いている。
「いやあ!」
紺野は悲鳴を上げながら、オロオロとまごつく矢野には目もくれず、階段を駆け下りてきた。
矢野が、呆然としたように紺野の背中を一瞬目で追った後、自身もはじかれたように階段を駈け下り始める。
完全なパニックに陥っている紺野は、矢野の足音が聞こえた途端に体をびくっと震わせ、悲鳴を上げた。
「きゃあああ!」
舟木が段に片足をかけたままの体勢で、ひっと小さく叫んだ。
同時に、紺野の体が、がくっと斜めに傾いた。
もつれた右足が、階段を踏み外していた。
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