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紺野は、なすすべもなく、そのままごろごろと階段を転げ落ちた。
長い髪がバラバラと乱れて弧を描く。
踊り場まで彼女の体が落ちてきた瞬間、巽を含め、その場にいた男は誰も動くことが出来なかった。
紺野の体は踊り場をごろりと転がって、巽の目の前で止まった。
「い、痛い……。いた……い」
紺野が声を絞り出すようにうめく。
巽は我に返って、紺野に駆け寄った。
「お、おい……、紺野、大丈夫か?」
「う……うん」
紺野はうめきながらも、腕を突っ張り、なんとか上体を起こして、その場に横座りした。
幸い、意識はしっかりしており、出血もしていないようだったが、背中を丸め、両手で膝小僧のあたりを抱えている。
「足……足痛い……」
「だ、大丈夫か? 紺野」
矢野が歯をガチガチふるわせながら階段を下りてきた。
舟木が、その矢野の腕をつかんで、叫ぶように言った。
「な、何やってんだよ、お前ら! 一体……!」
「や、やべーよ! やべーんだよ。音がしたんだ。聞こえたんだよ」
矢野は、肩で息をしながら、いつにもまして大きく見開かれた目を、不安そうに階段上に向けて言った。
それにつられるように、舟木も三階を見上げる。
「音って……、何だよ」
「あ、足音だよ!」
矢野の言葉に、舟木は、ぐうと喉を鳴らして黙り込んだ。
島田が乾いた笑い声を漏らし、言った。
「で、加藤はどうしたんだ」
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