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姿を現したのは、加藤だった。
「矢野、マジ、てめえふざけんなよ」
舟木が矢野の肩を拳で突いた。
加藤は不思議そうな顔をして、巽達を見下ろした。
そして眉をひそめる。
「えー、ちょっと、みんなどうしたの? えっ、麻衣!? なんで? 大丈夫ー?」
紺野は、まだ涙を流しながら小さくうなずいた。
それから、ふと目の前の鏡に目をやったところで、紺野は小さく息をのんだ。
その視線につられるように、巽も鏡を見た。
鏡には、先ほど見たときと同じ、薄暗い踊り場が映し出され、そしてその真ん中に紺野と巽、島田の三人が映っている。
巽が見る限りは、なにもおかしいものは映り込んでいない。
しかし、鏡の中で、紺野の顔は恐怖に歪んでいた。
彼女の視線は、鏡の上の方、わずかに映り込んでいる真っ暗な三階の廊下に向けられている。
「紺野? どうした?」
巽の問いかけに、紺野は答えない。
いや、答えられないという方が正しいか。
カタカタと唇を震わせながら、必死に何かを言おうとするのだが、言葉が出てこないようだった。
そのとき、突然、紺野は加藤を振り返った。
「と、ともみん……!」
「え?」
うしろ……
紺野がそう言いかけるのと同時だった。
加藤の体が、ぐらりと揺れ、上半身が前に大きく傾いた。
「えっ、えっ、なに?」
加藤が後ろを振り返ろうとするよりも早く。
彼女の体は宙を舞い、弧を描いて、落下し始めた。
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