夜の冒険

14/14
前へ
/283ページ
次へ
姿を現したのは、加藤だった。 「矢野、マジ、てめえふざけんなよ」 舟木が矢野の肩を拳で突いた。 加藤は不思議そうな顔をして、巽達を見下ろした。 そして眉をひそめる。 「えー、ちょっと、みんなどうしたの? えっ、麻衣!? なんで? 大丈夫ー?」 紺野は、まだ涙を流しながら小さくうなずいた。 それから、ふと目の前の鏡に目をやったところで、紺野は小さく息をのんだ。 その視線につられるように、巽も鏡を見た。 鏡には、先ほど見たときと同じ、薄暗い踊り場が映し出され、そしてその真ん中に紺野と巽、島田の三人が映っている。 巽が見る限りは、なにもおかしいものは映り込んでいない。 しかし、鏡の中で、紺野の顔は恐怖に歪んでいた。 彼女の視線は、鏡の上の方、わずかに映り込んでいる真っ暗な三階の廊下に向けられている。 「紺野? どうした?」 巽の問いかけに、紺野は答えない。 いや、答えられないという方が正しいか。 カタカタと唇を震わせながら、必死に何かを言おうとするのだが、言葉が出てこないようだった。 そのとき、突然、紺野は加藤を振り返った。 「と、ともみん……!」 「え?」  うしろ…… 紺野がそう言いかけるのと同時だった。 加藤の体が、ぐらりと揺れ、上半身が前に大きく傾いた。 「えっ、えっ、なに?」 加藤が後ろを振り返ろうとするよりも早く。 彼女の体は宙を舞い、弧を描いて、落下し始めた。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加