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診療時間を終えているため、時折、廊下を看護師が早足で行き交うぐらいで、ほかに人の姿はほとんど無い。
巽はため息をついた。
自然と、己の不甲斐なさを呪う言葉が口をついて出る。
「くそっ。畜生……」
しんと静まりかえった待合室に、思ったより声が大きく響いた気がして、巽は慌てて周りを見回した。
待合室の隅には男が一人座っていた。
寝ているのか、その男はうつむいていて、巽の独り言を聞きとがめた様子はなかった。
巽は、向き直ると、再びため息をついた。
さっきから、加藤が階段を落下してくる映像が脳裏にいやというほど繰り返し再生されていた。
そして、巽の心はそのたびに一段下へ,下へと沈み込んでいった。
加藤が落下した後、騒ぎを聞きつけて、一階の職員室や他の部屋から、教師や生徒がばらばらと駆けつけた。
彼らは、踊り場に横たわり、血まみれの顔で痛みにうめく加藤を見て愕然とした表情をしたが、それでもすぐに救急車を呼んでくれた。
救急車で運ばれたのは、加藤と紺野、そして巽だった。
救急車の担架に乗せられた加藤は、ぐったりとして、時々聞き取れないほどの声で何かをつぶやいた。
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