父と子

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巽は自分の右手をじっと見つめた。 手首の軽い捻挫。 中学まで空手をやっていた巽に取ってみれば、ケガのうちにも入らないが、大げさに湿布が貼られ、上から包帯が巻かれていた。 巽はその部分を、確かめるように左手で握ってみた。 腕の内側の筋にくぐもった痛みが走る。 顔をしかめて手を放しながら、馬鹿みたいに無意味な負傷だと巽は思った。 あのとき、自分は加藤を受け止められると本気で思ったのだろうか。 胸の中一杯に、苦い思いが広がった。 加藤が落下したその瞬間、巽は紺野を支えていた手を放し、階段へ走った。 何も考えていなかった。 ただ、体が条件反射のように動いただけだ。   右腕を伸ばして、自分の指先が、落下する加藤の肩に触れたのは覚えている。 しかし、結果としては、巽が受け止める前に加藤の体は階段に打ち付けられ、バランスを崩した巽もろとも階段を転がった。 全てが一瞬のことだった。 気がつくと、巽は踊り場の床に倒れ込んでおり、そして彼の足の上に、加藤の体が乗っかっていた。
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