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診察室のドアが開いて、巽達と救急車に同乗していた学年主任の横山が出てきた。
診察室に向かって腰を折り曲げるようにしておじぎをすると、巽の方へ歩いてくる。
横山は、高圧的な態度で常に生徒を管理しようとする教師で、生徒の間ではどちらかというと煙たがられている存在だった。
しかし、今日は救急車が来ると、自ら進んで同乗したので、巽は少し横山のことを見直していた。
横山は、巽にちらりと笑顔を作ったが、しわの寄った目元には疲れがにじんでいた。
「真山、先生がもう帰って良いとおっしゃってるから。まあ、お前はたいしたことなくてよかったよ。ご家族はもうそろそろ来るな?」
「あ、いや、俺、一人で帰れるんで。この病院、来たことあるし」
巽が鞄を持ちながら立ち上がって言うと、横山は巽の肩を押さえつけて首を振った。
「ダメだ、お前だって一応けが人なんだからな。それに、お前の家にはもう学校から連絡が行ってるはずだから、迎えが来るまでここで待ってなさい」
すでに家へ連絡が行っていると聞いて、巽の顔が曇った。
「はあ……。でも多分、うちの人忙しいんで、だれも迎えになんか来ないと思うんですけど……」
時計の針は八時を少し過ぎていた。
今の時間だと、父が家に帰って来るか来ないか、といったところだろう。
うつむいて黙り込む巽の顔を、横山はしばらく無言で見たあと、立ち上がった。
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