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「じゃあ、先生がもう一回、真山んちに電話して確認してみるわ」
巽は慌てて立ち上がり、横山を押しとどめた。
こんなことで病院送りになった事実を、姉はともかく父親には知られたくなかった。
「いや、あの、大丈夫ですから。自分で電話するし。それより、加藤、大丈夫なんですか?」
巽が話をそらすと、横山は少し難しい顔をして、再び待合室のイスに腰を下ろしながら言った。
「まあ……大丈夫、とは言い難いな。左のすねを骨折してるし、体のあちこちを打撲しているらしい。命に別状はないというのがせめてもの救いと言えば救いだ」
巽は無言でうつむいた。
命に関わることはないとはいえ、骨折というのは、決して軽いけがではない。
巽は何度目かのため息をついて、両手で顔をゴシゴシとこすった。
横山は、そんな巽の様子をしばらく見ていたが、ゆっくりと口を開いた。
「それで、お前ら、一体何やってたんだ、あんなところで、あんな時間に」
巽は顔を上げて、横山を見た。
横山は微笑みを浮かべ、じっと彼を見つめていた。
巽は、急に申し訳ないような気持ちになって、不覚にも少し涙ぐんでしまった。
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