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「え……えっと、踊り場に……」
巽の答えに、横山は少し眼を細めて何かを考えているような表情をした。
なぜか、その目つきは巽の心をざわめかせ、不安をかき立てた。
横山は、薄い唇をペロリとなめてから、言った。
「で、本当は? 違うんだろ?」
「……は?」
「……なあ、真山。お前だろ? 加藤を階段から落としたの」
「え? ち、ちょっと……何言ってんすか?」
思わず身を乗り出して抗議する巽を、横山は、なだめるように手を上下にヒラヒラと振りながら言った。
「ああ、わかってる。別にわざとやったんじゃないんだよな。お前がそんな人間じゃないってこと、先生はよくわかってるよ……。
……だから、な? 正直に言えば悪いようにはしないから。それとも記憶がまだ混乱してるか? よく思い出してみろ。真山、お前、階段を上って音を聞きに行って、それで……」
「いやいや、何言ってんですか! 混乱なんかしてないし。俺は、加藤が落ちるとき、間違いなく踊り場で紺野の体を支えていたんで! ていうか、なんで俺がこんな……」
それに対し、横山はわざとらしく首をかしげながら、腕を組んだ。
額が脂でいやにてかてかしているのを、巽は嫌悪感をもって眺めた。
「しかしそりゃなあ、つじつまが合わないんだよなあ」
そこで横山はまた咳払いをして、細めた目つきを巽に向けて言った。
「……加藤がな、後ろから誰かに押された、と言っているんだ」
「えっ」
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