父と子

8/17
前へ
/283ページ
次へ
「え……えっと、踊り場に……」 巽の答えに、横山は少し眼を細めて何かを考えているような表情をした。 なぜか、その目つきは巽の心をざわめかせ、不安をかき立てた。 横山は、薄い唇をペロリとなめてから、言った。 「で、本当は? 違うんだろ?」 「……は?」 「……なあ、真山。お前だろ? 加藤を階段から落としたの」 「え? ち、ちょっと……何言ってんすか?」 思わず身を乗り出して抗議する巽を、横山は、なだめるように手を上下にヒラヒラと振りながら言った。 「ああ、わかってる。別にわざとやったんじゃないんだよな。お前がそんな人間じゃないってこと、先生はよくわかってるよ……。 ……だから、な? 正直に言えば悪いようにはしないから。それとも記憶がまだ混乱してるか? よく思い出してみろ。真山、お前、階段を上って音を聞きに行って、それで……」 「いやいや、何言ってんですか! 混乱なんかしてないし。俺は、加藤が落ちるとき、間違いなく踊り場で紺野の体を支えていたんで! ていうか、なんで俺がこんな……」 それに対し、横山はわざとらしく首をかしげながら、腕を組んだ。 額が脂でいやにてかてかしているのを、巽は嫌悪感をもって眺めた。 「しかしそりゃなあ、つじつまが合わないんだよなあ」 そこで横山はまた咳払いをして、細めた目つきを巽に向けて言った。 「……加藤がな、後ろから誰かに押された、と言っているんだ」 「えっ」
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加