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横山の意図するところに気付き、巽は、目の前が急に暗くなったように感じた。
追い討ちを掛けるように、横山の細めた視線が突き刺さる。
「か……加藤は……加藤は、俺に押されたって言ってるんですか?」
「ああ、そこまでは言ってない。そこまではな。あいつもあいつで、あまりはっきりとは言わんのだ」
「……それでも、先生は俺のことを疑ってる」
巽が言うと、横山ははげ上がった頭をポリポリとかいた。
「だって、お前怪我してるじゃないか、現に。階段から加藤と一緒に落ちたんだろ? お前、自分でそう言ったぞ?」
「それは、加藤が落ちてきたんで、俺がとっさに受け止めようとして階段を上って……って、これ、さっきも説明したじゃないですか!」
言いながら、巽は手が膝の上で小刻みに震えるのを感じた。
「いやいや。お前の説明は不自然だよ。人間、そんなとっさに動けないだろう。もういいよ、真山。いつまでも意地はるな」
横山は、猫なで声で、子供に言い含めるような口調で続けた。
「階段で、加藤と喧嘩でもしたか? な、先生に正直に全部話しちゃいな」
巽は横山を見返した。
言葉は出てこなかった。
怒りで喉が詰まって、押しつぶされるようだった。
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