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横山を殴って黙らせるか、即刻この場から立ち去るか、どちらかを選ばなければ、自分の頭がどうかなってしまいそうだった。
どちらとも決めかねるまま巽が立ち上がろうとしたそのとき、
「その話、もう一度、最初からお聞かせ願えますか」
突然、すぐ背後から、緊張を打ち破る朗々とした声が響いた。
巽は声のした方を振り返り、待合室の入り口で仁王立ちしている人物を認めて凍り付いた。
「親父……」
真山辰造は、顔をこわばらせる巽の方へは目もくれず、慌てて頭を下げる横山の前までつかつかと歩み寄ると、その顔をじっと見据えた。
「彼を疑うからにはそれなりの根拠がおありなんでしょうな。まずはそれをご説明いただきましょうか」
辰造は、横山を上から見下ろすようにして言った。
180センチを超える長身にいかつい顔。
鋭く光るまなざしは、他を威圧するのに十分だった。
対する横山は、まさに蛇ににらまれたカエルそのもので、広い額に脂汗をにじませながら、無意味にぺこぺことお辞儀を繰り返した。
「いえいえ。あの、私はただ息子さんから事情を伺っていただけでして……。息子さんを疑っているとか、そういったことではなくてですね……」
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