苦い紅茶物語

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 別れなんて、案外こんな風に呆気なく来るものなのだ。どうせ出ていかなければならないのなら、せめてもう一回抱かれたい。何もできなかったせめてものお詫びじゃないけど、買われた体なんだからそれがふさわしい。  抱いてくれってお願いすればいい。加納はきっと拒まない。今日は無理だろうけれど。  そう思い至るとざわつく胸を抑えるのは難しい。  今頃あの二人は何をしているのだろう。  ホテルの部屋で。することなんか一つじゃないか。  加納のいる方向の窓の外を見て、冷たいガラスに額をあてた。  きりきりとした冷たさが、お前がいる場所はここではないと突きつけてくるようだった。
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