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急に部屋の空気が張りつめ、ミッドナイトの雰囲気がこれまでとは一変した。
坂元がそれに気が付いて直ぐに押し黙る。
「兄チャンなぁ…目に見えない物に頼りたくてここまで来たのは良くわかる、藁にもすがる思いでな、みんなそうやここに来る連中は、わしにそんな力を期待して…でもわしはあくまでも助言者や人生や仕事の悩み事聞いて精神的なサポートしたり指導したり、予言者とか霊能者の類じゃのうて、向こうの言葉で言えばメンターや」
「メンター…?」
「そう、特殊な力なんか一つもない、ただの普通のオッサンや」
「えぇぇぇ、じゃぁ、そのメイクとか…杖とかは…」
「コスプレや全て洗いざらい話を聞き出すためのな、みんなこの格好の方がちゃんと話してくれるんや、兄チャンもそやったろ、一から十まで話を聞いて、最良のアドバイスするのがメンターの仕事や」
坂元は納得したのかしないのか、口を開けたまま何度か小さく頷いた。
「なぁ兄チャン、恵比寿の霊媒氏がわしを紹介したのは、今一度冷静になって己と向き合うためや、この世の中は目に見えるものが全てなんや、目に見えない力が存在せんとは言わん…しかしな現実の世界に生きるわしらは、それを受け止めて立ち向かって歩んで行く生き物なんや、今の自分の現状がどうであれ、それが人間ちゅう生き物なんや…もしかして死んで償う選択もあるのかもしれん、でも残された周りの誰かが…必ずその罪を償わなければいけない事を忘れたらあかんよ」
ミッドナイトの言葉が坂元の心の奥底の何処かに突き刺さった。
溢れだしてきた涙がぽろぽろと頬を伝って流れ出す。
それをシャツの袖で一生懸命拭いながら、坂元は深く頷いた。
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