序章 ゴミ山の少年

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「兄貴、おかえり」 住処に戻ると。 弟たちも、惑星明かりで目覚めていた。 「おはよ」 「おはよう。  兄ちゃん、このお菓子、どうしたの?」 ビスケットの缶は、しっかり者の妹によって。 保存食用の棚に幽閉されていた。 「交換してきた」 「たった今?」 「寝てる時に音がして見に行ったんだ。  デンシャが一両あった」 言いながら。 少年は袋から取り出した肉のパックを投げる。 一人ずつキャッチする。 「はい、朝飯」 「肉だ!」 弟たちは沸き立つ。 「一人でばらしてきたの?」 「俺も起こせよ」 「兄ちゃんばっかり頑張りすぎ」 少年は、続いてチョコレートを一つあける。 ひとかけらずつ。 砕いて投げる。 しっかり者の妹は、受け取ると変な顔をした。 「兄ちゃん。  あたしたちの食べ物にばっかりしないで、  お金貯めなよ」 「金なんか、食えないだろ」 「でも食べ物は、とっておけないでしょ」 ゴミ山の人間は、物々交換で生きてる。 でも。 通貨が使えないわけじゃない。 食べ物の方が早いからってだけで。 「今日の食い物があれば十分」 チョコレートの残りを包み直す。 「言ってることとやってること」 妹に言われるまで気づかなかった。 残りを取っておこうとした。 それを見た。 ちびの弟は、チョコを口に入れる手を止めた。 「兄貴は食わねえの?」 「チョコ嫌いだから」 そんなわけない。 ゴミ山では、何でも食べなきゃ生きられない。 「兄ちゃん、食べなよ」 「大きくなれないよ?」 「ちびが何言ってんの」 親はいない。 捨てられた者同士。 集まって。 家族になって。 ゴミ山に生きるのは。 みんなそう。 ニンゲンはそうやって。 集まって生きるシュウセイなんだろう。 「親爺に、金にしてくれって言えよ。兄貴」 「ハイハイ」 「金貯めて、家買って、  都市で仕事して偉くなってよ」 「ハイハイ、いつかね」 少年が話を変えようと。 外に目を向けた時だった。 『警告!  宇宙ゴミが飛来します。  安全な建物に避難してください。  警告!  宇宙ゴミが…』 都市の方から。 かすかに。 警報音が聞こえてきた。 「ゴミが来る!」 目の色が変わる。 外へ出た。 都市を見る。 中央の塔のてっぺんが、赤く点滅していた。 少年たちは、塔よりもさらに上を見上げる。 黒々とした。 空の広がりの中。 惑星の。 青い光に照らされ。 冷たく反射する。 「来た!!」 黒い塊が。 都市に向かって降ってくる。 そう。 ここは。 ゴミの降る星。
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