4章 風が吹く

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「そうだ、掃除屋が名前付けて!」 「はあ?何言ってんだガミガミ」 「ガミガミ言うな!トンチ兄」 妹が、パンを床に置く。 床という位置づけの、ゴミの上に。 「掃除屋、  あたしたちは自分よりでかいやつから、  名前をもらえる。  ゴミ山のフーシューみたいなもんでさ。  名前をもらったら1人で生きていけるんだ。  兄ちゃんはいつまでも、  適当なあだ名ばっかり付けて、  名前をくれないんだけど、  本当はもう独り立ちできる力はあるよ」 3匹の弟たちも、コクコクとうなずく。 「ないだろ」 ハヤオは言う。 「あるよ」 「あるある」 「1人で拾えるし」 「売りにも行ける」 「親爺と交渉だってできる」 「充分、1人で生きる力ある」 「だから」 妹は、握りしめる。 「独り立ちさせて、  もう兄ちゃんを都市へ連れてって」 掃除屋を、見上げる。 強い目で。 睨みつけるかのように。 赤い目で。 それを、まっすぐに見返して。 「それは」 俺には、決められない。 掃除屋はたしか。 そう言ったんだと思う。 ハヤオは。 それをきく前に。 立ち上がっていた。 去り際。 肩越しに、振り返って。 妹が、目元を。 握りしめた拳で。 こすっていた。 「ふざけんな」 ハヤオは、ひとり。 小高いゴミの、丘の上。 つるりと湾曲した鉄の板の。 内側に。 寝転がって。 星空を見て。 吐き捨てた。 どうして。 掃除屋なんかに。 ならなきゃならない。 都市なんかに。 いかなきゃならない。 ずっと、このゴミ山で。 きょうだいで。 生きていければ。 それで、いいのに。 「掃除屋、なんかに」
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