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ゴミ山を出たら、何もない。
きょうだいと離れたら、することがない。
何も、恐れることがない。
何も、避けることがない。
ただ。
死んでいくのを。
受け入れるだけだ。
何が楽しい。
弟たちといて。
妹に怒られて。
それだけで。
楽しいのに。
夜通し起きて、1人でゴミを拾っても。
稼いだ金を。
自分じゃ食わない菓子に変えても。
傷だらけの足で、歩き続けて。
きょうだいの寝てる、住処に帰って。
起きたあいつらと、笑えるんだから。
楽しいんだから。
大切なんだから。
失くしたくない。
うまいもの食えるとか。
良いもの着れるとか。
安全な場所に住めるとか。
どうだっていい。
このままがいい。
変わらないままがいい。
「ハヤオ、ここにいたのか」
妹に、掃除屋になれと言われた日。
1人星空を眺めていたら。
掃除屋が。
ガチャガチャと、登ってくる。
背を向けて。
寝たふりをした。
それでもかまわないのか。
少し、離れて。
腰を下ろす。
「名前、付けてやらないのか?」
起きてるの。
わかってた。
でも、無視する。
「俺の生まれたところでは、
子どもの名前は、
親は付けないんだ」
掃除屋の生まれ。
都市のこと。
「名付け親って言って、
一緒に暮らさない祖父母や、
親の恩師なんかが名前を授ける。
親は、
子どもを自分の所有物としてじゃなく、
自分を育てた、
たくさんの人のおかげで授かった、
みんなの宝として育てるんだ」
無視。
所有物なんかじゃない。
きょうだいだ。
お前の方こそ。
餌をやって、なつかせて。
暇つぶしに。
遊んでやってるつもりじゃないか。
「お前の弟たちに、
俺が名前を付けてもいいか?」
嫌だね。
「お前が、
親代わりになって守ってきたんだから、
たまに遊びに来る俺が、
付けてやってもいいんじゃないかって思う」
嫌だ。
「名前を持って、一人前になっても、
きょうだいだろ。
対等な仲間として、
一緒に助け合っていったらいい。
名前があるっていうのは、
人として必要なことだ」
嫌だ。
守らなくていいなら。
自分がいる意味もない。
「弟たちのことを考えろよ。また来る」
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