4章 風が吹く

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目を開けると。 部屋には誰もいなかった。 ベッドから起き上がる。 窓の外は惑星の傾く頃だった。 どれくらい眠っていたのだろう。 じっと見つめていると。 星空の中に。 浮かぶ自分たちが。 あまりにも小さく。 無価値で。 馬鹿馬鹿しく。 大切で。 かけがえのない。 孤独で。 温かい。 生命なのだと。 空に。 見つけた。 見逃さなかった。 はやる心臓を落ち着けるように。 息を吐いて。 大丈夫。 今日は落ちない。 誰も当たらない。 大丈夫。 大丈夫。 気づいたら駆け出していた。 惑星はもう西にある。 勤務しているのはどこの班だ。 気づいているか。 屋上に出ると。 ゴミは彼方に飛んでいく。 都市には降らなかった。 もっと高い空を。 見に行かなければいけない気がして。 梯子をたどるように。 視線を上げていき。 暗い空の中に。 塔の先端が刺さるのを。 見つめる。 ふと。 その途中。 有線の受話器がある。 足場の影から。 ひらひらと。 何か。 たなびいている。 黒い。 何か。 「なんだろう」 裸足で。 足音もなく。 するすると。 梯子を登り切ると。 それは。 長い黒髪だった。 「おはよう、ハヤオ、だっけ?」 「うん」 十二時班の班長の。 「ユキ、さん」 「うん」 死んだ掃除屋を、撃った人。 疑問は解決したので。 降りようかと。 思ったら。 「座りなよ」 そう言って。 少し詰めてくれる。 今は命綱がない。 ユキを見ると。 ベルトを繋いでいないどころか。 装備を何もつけていない。 そもそも制服じゃないし。 靴も履いてない。 それは。 ハヤオと一緒だった。 「落ちない?」 「落ちないよ、大丈夫」 笑って。 首の後ろを掻いていた。 「落ちるのは、  怖いよね」 ぽつりと。 ハヤオに言ったのではない。 独り言は。 「落ちることも、  そのあとに起こることも怖い」 そのあとに起こること。 「でも結果死ぬのが変わらないなら、  地上の人を守る。  そのために撃つよ。  大事な仲間でもね」 ちっとも震えない。 その声と。 その目に。 ハヤオは。 みじろぎした。 通信機は壊れていたから、ハヤオのあの言葉はこの人には聞こえなかったはずだ。 この人の意思で、撃った。 顔を背けて。 離れようとして。 腕を掴まれた。 「落ちるよ?」 狭い足場から。 踏み外すところだった。 ぐいと。 引き寄せられ。 胴に腕を回され。 情けなくも抱き留められている。 目の前に。 ユキさんの瞳が迫る。 「君の目、  すごくいいんだよね?」 深い。 虹彩の色。 瞳孔が開くのが見える。 「私もなんだよ。  君と同じ目なんだ」 「同じ?」 「掃除屋の目。  見るべきものが見える目」 「見るべきもの?」 「そう」 目が細く閉じ。 微笑む。 「誰とも違う。  特別な目だよ」 まつ毛が震えて、再び開いた。 「リーダーとも、  ナツイチとも、  マキとも違う」 その瞳に。 捕らえられたかのように。 動けない。 何もできない。 「君は掃除屋になるよ」 その言葉が。 終わらないうちに。 足元から。 真っ赤な光が差す。 『警告!  宇宙ゴミが飛来します…』
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