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目を開けると。
部屋には誰もいなかった。
ベッドから起き上がる。
窓の外は惑星の傾く頃だった。
どれくらい眠っていたのだろう。
じっと見つめていると。
星空の中に。
浮かぶ自分たちが。
あまりにも小さく。
無価値で。
馬鹿馬鹿しく。
大切で。
かけがえのない。
孤独で。
温かい。
生命なのだと。
空に。
見つけた。
見逃さなかった。
はやる心臓を落ち着けるように。
息を吐いて。
大丈夫。
今日は落ちない。
誰も当たらない。
大丈夫。
大丈夫。
気づいたら駆け出していた。
惑星はもう西にある。
勤務しているのはどこの班だ。
気づいているか。
屋上に出ると。
ゴミは彼方に飛んでいく。
都市には降らなかった。
もっと高い空を。
見に行かなければいけない気がして。
梯子をたどるように。
視線を上げていき。
暗い空の中に。
塔の先端が刺さるのを。
見つめる。
ふと。
その途中。
有線の受話器がある。
足場の影から。
ひらひらと。
何か。
たなびいている。
黒い。
何か。
「なんだろう」
裸足で。
足音もなく。
するすると。
梯子を登り切ると。
それは。
長い黒髪だった。
「おはよう、ハヤオ、だっけ?」
「うん」
十二時班の班長の。
「ユキ、さん」
「うん」
死んだ掃除屋を、撃った人。
疑問は解決したので。
降りようかと。
思ったら。
「座りなよ」
そう言って。
少し詰めてくれる。
今は命綱がない。
ユキを見ると。
ベルトを繋いでいないどころか。
装備を何もつけていない。
そもそも制服じゃないし。
靴も履いてない。
それは。
ハヤオと一緒だった。
「落ちない?」
「落ちないよ、大丈夫」
笑って。
首の後ろを掻いていた。
「落ちるのは、
怖いよね」
ぽつりと。
ハヤオに言ったのではない。
独り言は。
「落ちることも、
そのあとに起こることも怖い」
そのあとに起こること。
「でも結果死ぬのが変わらないなら、
地上の人を守る。
そのために撃つよ。
大事な仲間でもね」
ちっとも震えない。
その声と。
その目に。
ハヤオは。
みじろぎした。
通信機は壊れていたから、ハヤオのあの言葉はこの人には聞こえなかったはずだ。
この人の意思で、撃った。
顔を背けて。
離れようとして。
腕を掴まれた。
「落ちるよ?」
狭い足場から。
踏み外すところだった。
ぐいと。
引き寄せられ。
胴に腕を回され。
情けなくも抱き留められている。
目の前に。
ユキさんの瞳が迫る。
「君の目、
すごくいいんだよね?」
深い。
虹彩の色。
瞳孔が開くのが見える。
「私もなんだよ。
君と同じ目なんだ」
「同じ?」
「掃除屋の目。
見るべきものが見える目」
「見るべきもの?」
「そう」
目が細く閉じ。
微笑む。
「誰とも違う。
特別な目だよ」
まつ毛が震えて、再び開いた。
「リーダーとも、
ナツイチとも、
マキとも違う」
その瞳に。
捕らえられたかのように。
動けない。
何もできない。
「君は掃除屋になるよ」
その言葉が。
終わらないうちに。
足元から。
真っ赤な光が差す。
『警告!
宇宙ゴミが飛来します…』
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