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私がゆうのさんと出会ったのは雪のちらつく八月。いや、十月だったか。そもそもなん年前の話だったのか。長く生きているとあやふやになってくる。覚えていないということはどうでもいいことだったのだろう。そう。時間なんて概念関係ない。愛があれば全てがハッピー。ラヴアンドピース。とりあえず雪は降っていて最近の話だとは思う。
「なんなんですかあなたは。警察呼びますよ」
チェーンロックのドアの隙間から顔を出すゆうのさん。目の下には付き合いの長そうな大きな隈。長い髪はボサボサでグレーのフード付きパーカーは毛玉だらけだった。
「あ、はい。ちょっとムラムラしてきたので身体貸してもらえませんか?」
「どうしてそんなことゆうの!?」
唐突な申し願いに怯むゆうのさん。私は素手でチェーンロックを引き千切る。ゆうのさんは腰を抜かしてガタガタと震え出す。
待て、待つんだ。か、金か? いくら欲しい!? 五百円までなら出してやる! 明らかな死亡フラグはとても模範的でありながらその額の低さに私はときめく。素晴らしい。これこそ私の求めていた人材。腑抜けていながらに無駄に我だけが強い。圧倒的コミュ障感!
「そのゴミみたいなメンタルごと愛してあ・げ・るぅうううううっ!」
「やめて差し上げろぉおおおぉおおっ!!」
叫びと共にゆうのさんの生白い掌が下駄箱の戸を勢いよく叩く。瞬間、飛びかかった私の真下から玄関タイルを突き破ってバンブートラップが風を切った。
そう。これが二人の運命の出会いでした。
鬱屈したニート系女子を蹂躙。もとい。純粋に愛したかったわたし、赤佐棚子。それを全力で阻止せんと来客用のブービートラップを駆使する壊死的コミュ障人間ゆうのさん。初めてを貫かれた(全身を)のは私の方でした(竹で)。
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