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「何しちゃったの?」
突然横から声をかけられて私は顔をあげた。
「え……」
「どうして泣いてるの?」
そこにいたのは見知らぬ美男子だった。髪形はこげ茶のマッシュで、肌は雪のように白く、クリーム色のダッフルコート、白のセーターに、灰色のジーンズ。歳は私と近そうに見える。
「な、なんですか?」
「泣いてるから」
「あ、そうですよね……」
私は閉口した。すると彼は私の隣に腰かける。
「彼氏に振られた?」
私は俯いた。図星だったから。
「じゃあ俺とデートする?」
何でこの人はこんなにフレンドリーに話しかけてくるのだろうか。若いし、見た目もいいし、女には困っていないだろうに。怪しさ満天だ。私は訝しげな声を出した。
「……知らない人にはついていくなって」
「それ誰に言われたの?」
その思わぬ素早い返しに戸惑った。
「か、彼氏?」
「嘘つきなよ。と言うか何で疑問系なんだよ」
「そ、それは……」
私が口ごもると、隣にいた彼は弾みをつけて立ち上がった。そしてぱっと私の手を掴む。
「まあいいからついておいで。世間を何も知らない迷子の子猫ちゃんに、もっと楽しいこと教えてあげるよ」
「い、いいです。放っておいてください」
「いいからいいから」
そうして無理矢理その男は私の手を引いてクリスマスの街を歩き始めた。
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