YAMADAの個性

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YAMADAの個性

④ 人の悪意のオーラを感じるようになったのは、いつからだろう。僕に悪意を向けない人は少ししかいない。だから人混みは嫌だった。 あの日から〈SHELLY 〉に通っている。 彼女は彼女ではなかった。でも僕に悪意を向けない貴重な人だ。カバさんもその一人。ここの人はみんなそうかもしれない。ママさんも。 何度かはVIP席を予約したけれど、僕の通帳から流れるように貯金が減っていることをお見通しのカバさんに言われた。 『普通の席で来てください。』 No1のあのショーは特別なもの。一度だけ他の人のためのショーを見たけど、辛かった。 だからあのショーが行われる時は店の外に出た。 何をしているんだろう。でもソファじゃなくても、ツーさんのいる空間は心地いい。 オレンジジュースしか飲めないのに、彼らは僕に悪意を向けない。 今、僕にはひとつだけ希望がある。ツーさんに『先生』じゃなくて名前で呼んでほしい。 いつか店に来た客ではない人に彼女が呼び掛けたのを聞いた。『シン』って。 なぜかとても羨ましかった。僕も『タケル』って呼んでほしいと思った。 『SHINはツーにとって、恋人で兄貴で特別な存在だから。』 葵さんにそう言われた。背が高くて、涼しい顔をしたピアニスト。 そんな彼がツーさんに触れると心が痛かった。 僕なんかと違う。そんなことをポロっと言ってしまった時だった。 『違わないぞ。SHINも先生も誰かのために一生懸命仕事してる。一緒だ。背が低くいとか、見た目は個性だ。』 そう言ってくれたツーさんからも悪意を感じなかった。だから言ってみようと。 「ツーさん、先生って言わないで。名前で呼んでほしい・・」 タケルってって言ったとき、隣のテーブルで大きな笑い声。
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