YAMADAの憂鬱

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② 2件目に連れて行かれたのは奇妙な店だった。 ビルの半地下になっている店の看板は 〈SHELLY 〉。 重たそうな扉を開けたとたん、高いのか低いのかわからない笑い声が溢れた。 オカマバー?教授はこんな店がお気に入りだったのか?彼には奥様がいるぞ?お子さんもいるぞ? なのにオカマバー?下卑た笑い声に虫酸が走る。 女性は嫌いだ。怖い。でもオカマはもっと怖いだろ?帰らせてくれ、僕のかわいいラットの元に。 重たい扉を開けて、ほとんど中に押し込まれるようにその店に入った。目の前には真っ赤な空間が広がる。赤いライトはラットに興奮を与える時に使う。人間も同じなのか?そこにいる人々の声は、必要以上に大きい。笑い声もやたらと。でも全体的に低い。 クラブとかキャバクラっていうところには行ったことがない。そもそもアルコールは苦手だ。 だからこれからも自ら利用することは絶対にないだろう。クラブもキャバクラもオカマバーも! 僕はほとんど引きずられるように一番奥のテーブル席に連れて行かれた。香水の臭いとアルコールの臭いで鼻がおかしくなりそうだ。 でもソファの座り心地は良かった。 座らされた僕の横に二人のホステス(?)が座る。どちらも綺麗な人だ。作り物のような顔をしている。女性に見える。でも声を出すとわかる。 『葵で~す。大学の先生なんですかぁ?スゴーイ、お若いのに~!』 すごいなんてまったく思っていないことがビシビシと伝わる。 帰らせてくれ。大きく胸の開いたドレスは、目のやり場にも困る。 何度も言うけど、僕はお酒が飲めない。この製薬会社の人たちはなんなんだろう?なぜ僕をこの不快な空間に連れてくるんだ。何があるんだ? 「すいません、オレンジジュースをください。」 俯いたままで言った僕の言葉に、葵という人は席を立った。
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