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『先生って偉い人はみんなそう呼ばれたがるのに。変わってるね。でも偉いね。謙虚ってやつだな。』
いや多分そうでないよ。
『わかった!今日からツーは呼び捨てにするよ。ヤマダって!』
いや違う!
『ヤマダ、偉いね。ツーは好きだ。そういうの。』
そこにゴリさんが来た。
『ゴリ、これからヤマダのことはヤマダって呼んであげて!』
ゴリさんはにやっと笑ったけど、わかったって煙草を吸い出す。カバさんだったらきっとなんとかしてくれたと思う。
『謙虚なのもヤマダの個性だ!ツーは好き。』
もう決して訂正できないけど、嬉しそうにヤマダを繰り返すツーさんが可愛かった。愛しい気がした。
ある日の帰りに、ドアを出たところでゴリさんに呼びた止められた。あまり店でも話さないのに。
『ヤマダ、もう来ない方がいいでしょ。』
いきなり。
『わかってると思うけど、ツーはオトコだから。あんたノーマルでしょ?』
自分がどうかなんてわからない。経験もない。餌を垂らされたこともない。笑顔の下で蔑まれた覚えしか。
『ツーはあの性のせいで結構ひどい目にあってたの。やっと笑うようになれた。あいつが悲しむのも見たくないしね。』
僕がツーさんを悲しませるとでも。
『本気になる世界じゃないのよ。楽しく遊べないなら来ない方がいい。』
もちろん考えたこともなかった。男性を愛することなんて。
女性経験はない。恋人が出来たこともない。
いいなと思った女性は昔いたけれど、その人からは蔑みや憐れみを感じてしまった。
大切なことはなんだ?僕にとって。
人間にとって。
大切なのは種の保存か?
僕はそこに貢献できないとは思う。
ただ、実家に電話をかけるのを忘れる日々は充実してるんだ。
誰かのために。自分の研究もそう考えられるようになってから色がついた気がする。
想ってるだけならいいじゃないか。
僕がおかしいのか?それも僕の個性にはできないのか?誰かに迷惑をかけるのか?
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