YAMADAのときめき

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YAMADAのときめき

③ 舞台にスポットが当たった。そこにはさっきのカバという人がいる。あの人が歌うのか?あの声で。 それならそれだけ聴いてみよう。 彼女(?)はシンセサイザーを弾き始めた。 その時、ステージの横からショートカットの女性が出てきた。そしてカバという人の伴奏で歌い出した。女性もいるんだ。 〈Moon River〉僕の好きな歌だ。 クラシック以外で唯一僕の好きな歌。 〈ティファニーで朝食を〉ー あの映画が好きだ。 汚れきれない主人公のホリーが好きだ。女性は怖いとしか思わないが、彼女にだけなぜか魅かれる。 オードリー ヘップバーンにではなくて、あの映画の主人公の彼女にだけ。 ステージで歌っている彼女から、なぜかホリーを感じた。 彼女は歌いながら、ステージの上から僕の方をちらりと見た。少し微笑んでいる気がする。 そのままゆっくりとステージを降りると、テーブルを廻るようにホールを歩く。その歩き方はまるで散歩をしているみたいだ。 薄く湛えた笑顔は客に媚を売るというより、すれ違った猫に微笑みかけるよう。 彼女は微笑みながら、歌いながらゆっくりと客席を廻り、最後に僕のいる一番奥のテーブルに。 最後の音を歌った息がマイクを通さずに聞こえた気がした。そして僕の斜め前に座った。 いつの間にか僕たちのテーブルにはワインクーラーに入った赤ワインが運ばれている。 彼女は器用に水滴が垂れないようにワインクーラーから瓶を出すと、これもいつの間にか僕の前に置かれているグラスに一瞬視線を移す。 僕はそのグラスを手にとってしまった。 アルコールは飲めないのに。
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