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古い街並みを流れる、小川沿いの土手。
その土手の両岸には、長い桜並木があった。
桜の木々は花の時期を過ぎ、すでに目を洗うような葉桜となっている。
ついこの間、ここで花見をしたばかりだったのに――。
(なんか……年々、時が経つのが早くなってる気がするなぁ)
そんなジジ臭い感慨に耽りながら、土手の散歩を楽しむのは、二十歳になったばかりの大学生――木邑寿(きむらひさし)だ。
(初夏の風って……気持ちイイなぁ……)
顔を撫ぜる風に目を細めていると――キャン! と犬の鳴き声がした。
「チャーくん! う○こ! ラブがう○こした!」
犬の鳴き声に続き、鈴を転がすようなテノールが――う○こ、を連呼する。
キャン! と、う○こ! が繰り返され――寿は顔をしかめて、手にしたスコップとビニール袋を構えた。
「……わかったよ、珠希(たまき)。今片付けるから、ラブ」
よっこらせ、とジジ臭く言いながら、寿は膝を折って用を足し終えた『彼女』――ラブの隣にしゃがんだ。
ラブはキャバリエという犬種で、二歳半のピチピチギャルだ。ほやほやのう○ちを片す寿に、ラブが嬉しそうに尻尾を振っている。
若い犬はテンションが高い。彼女と比べると、若い寿の年寄り臭さが際立つ――。
「よっこらせ、だって。……チャーくん、じいさんみてぇ」
ウシシシ、と寿を笑ってくれたのは、ラブに負けず劣らず若い、現役DKの香川珠希(かがわたまき)だ。
寿のお隣さん、である。
寿は、う○ちを入れたビニールを持って立ち上がると、頭一つ低くなる珠希を横目に、小さく息を吐いた。
憎たらしく笑っている珠希だが、それでも彼の横顔は漫画かイラストに描かれた人物のように美しい。小作りだが、ツンとして形のよい鼻が、彼の横顔の輪郭をより美しく見せる。
寿の視線に気づき、珠希が上目遣いで寿を見つめ返す。その目の大きさに、いつも寿はハッとさせられる。
少し吊り上った、黒目の大きなパッチリとした珠希の目。その目はフサフサのまつ毛で縁取られ、人の目を惹く。
寿も――見惚れてしまうほどだ。
「……なんだよぅ?」
珠希が唇を尖らせる。生意気ばかり言う唇は、うっすら赤く色づいて、艶めいている。
珠希は絵に描いたような――美少年だ。
「……あ! ラブ! いきなり走るなって!」
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