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薄汚れた野良猫なのに、なんとも美しい毛並みだった。
(……触ったら、気持ちよさそうだなぁ)
あの毛並みに触れてみたいと、強く思った。
そう思って――昔よく撫でた猫を思い出す。
あんなに高雅な毛並みや色合いではなく、そこらによくいる和風な模様で、フワフワと優しい手触りだった。
前を歩く、珠希の柔らかな髪が目に入り、寿は微笑む。
あの雌猫も、寿によく懐いていた。ちょっとすましているが、甘える時は鈴を転がしたような可愛い声で鳴いた。
可愛い猫を思い出しながら、寿は小川に目をやった。
この川には、あの猫が眠っている。
桜並木のそばを流れる小川。
その小川に眠る、かつて可愛がった雌猫は、さくら、といった。
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