第一話 織田信長、現代の伊豆下田へ

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 その日の早朝、伊織は自室の目覚まし時計のアラームが鳴ったのに気が付き、勢いよく飛び起きた。目覚まし時計のアラームを止めると伊織は眠たい目で周囲を見回した。自分はベッドで寝ていると思っていたのだが、目の前にあったのは自分の机だ。机の上には書類が何枚か散らばっていて、そのうちの数枚が自分のヨダレで濡れていたのを発見し、慌ててティッシュで拭いたが湿っていた。どうやら夕べ、入学式の準備に関係する書類を作成している途中で気づかぬうちに眠ってしまったようだ。  「あ~、やっちゃった~!!」  ヨダレで湿ってしまったその書類は、今日中に教頭へ提出しなければならない大事な書類だ。文字がヨダレで滲んでしまっていて、とても提出できるような状態ではない。作り直しである。今から作り直すにしても、朝食や昼食のお弁当の支度など色々やる事があるから家ではできない。やるとするならば職員室の自分のデスクで行うしかない。幸いにも学校はまだ春休みの最中で授業は無い。作り直す時間は充分にある。  「うん、大丈夫だ。きっと。」  伊織はそう意気込むと、廊下の洗面台で顔を洗って自室に戻り、全身が映る鏡の前に立って身支度を始めた。服を通勤着に着替え、肩より少し先まで伸びた黒髪を後ろに束ねて結び、化粧は控えめ程度にした。イヤリングやネイルなどはしていない。身支度を整え終えると、机の上にあった仕事の書類そして貴重品類をカバンに入れ、それを持ったまま1階のリビングダイニングへ向かった。  持ってきたカバンをソファの上に置き、閉ざされていたカーテンを開けて玄関へ向かい、新聞受けから朝刊を取り出しリビングのソファの前のテーブルの上に置く。そのままキッチンに向かい、壁に掛けておいたエプロンを身に付け、鍋を取り出して水を入れ、コンロの上に置きコンロの火を点けた。そしてフライパンも取り出してコンロの上に置いて火を点けて温めたのちサラダ油を少量フライパンに流し込む。そして冷蔵庫から朝食と昼食のお弁当の材料を取り出して支度を始める。ここまでの一連の流れを、ヨダレで大事な書類を汚したドジっぷりさとは思えないくらい、無駄な動きをすることなくスムーズにこなした。  朝食の支度をしている最中、白色のTシャツに黒色のキャミソールを着た妹の凛が欠伸(あくび)をしながら、リビングへとやって来た。
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