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「あれ? 凛、いつも起きる時間遅いのに、今日は早いのね。どっか行くの?」
「ちょっと街までね~。」
「ふ~ん…。誰と?」
「ふっふ~ん、カ・レ・シ♪」
「えっ、彼氏がいるの? …って事は、もしかしてデート!?」
「うん♪ 大学生の瀧本(たきもと)君。」
「大学生って、どこで知り合ったのよ?」
「昨日の部活帰りにね、彼が道に迷っていたところ偶然通りかかった私に尋ねてきたの。そしたら話している内に意気投合しちゃって~! 彼は普段は東京の大学に通っているんだけど、この春休みに下田に旅行に来ていて、それで私が下田を案内することになったの。」
「へぇ~…。って昨日会ったばかりで、もう“彼氏”!? 早すぎない!?」
「それがお互い一目惚れ、って感じ~?」
「へ、へぇ~…。(最近の子は手順が早いのかな?)」
「お姉ちゃん、一足先にスイマセンね~。」
「えっ!? な、なにを、突然…」
「だってお姉ちゃん、もうすぐ20代半ばになろうとしているのに、まだ恋人も、デートすらした事がない残念なお人でしょ? 高校生で妹のアタシが先にできちゃって、何だか申し訳ないなぁ~、って思ってさ。」
「よ、余計なお世話よ! が、学生時代は勉強や部活に励んでいたし、今だって仕事が忙しくて、アンタみたいに恋するヒマなんかないんだから!!」
「その言い訳、もうウンザリなんだけど。」
「い、言い訳じゃないもん。じ、事実だし…。」
「まあ、そういう事だから。朝食が済んだら、下田駅まで車で送っていってね。…って言うか、なんか焦げ臭いよ?」
「えっ? …あっ!!」
見ると、フライパンの上で焼いていた朝食用の目玉焼き1人分が黒く焦げていた。凛と話していて、気が回らなかった。
「…だから、お姉ちゃんは恋人ができないんだよね。」
「うっさいわね!!(怒)」
「あ、その焦げた目玉焼きはお姉ちゃんがちゃんと食べてよね。勿体(もったい)ないから。」
「トホホホ…。」
伊織は、ションボリと肩を落とした。その後の朝食で、伊織は黒焦げの目玉焼きを半分涙目になりながらも、なんとか食べ終えた。
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