第一話 織田信長、現代の伊豆下田へ

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 「行方が分からぬだと!? 蘭は? 信長の傍に仕えている蘭丸はどうした!?」  「分かりませぬが、おそらく殿の傍にいるかと…。それより、早くお逃げください! 敵はもうすぐそ こまで迫っておりまする!!」  「…分かった。」  「では、直ちに案内しますゆえ、こちらに…。」  「童(わらわ)は、ここに残る!」  「はい? 今、何と!?」  「童は、ここに残る。おまえ達は子供たちを連れて逃げろ。」  「なりませぬ! 姫様も一緒に逃げるのです!!」  「童は行かん。信長を探す。」  「いけません、姫様! 姫様も一緒に逃げるのです。姫様が行かなかったら、貴女の子供たちが悲しみます! 子供たちは貴女の大切な家族なんですよ?」  「信長も大切な家族じゃ!! 童の夫で、この子たちの父親なんじゃ!!」  「姫様…。」  濃姫は老婆の顔を見て、すぐハッとした。そして老婆に「…すまない」と謝った。  「…止めても無駄のようですね。姫様は、昔から一度言い出した事は止めないですものね。」  「母上…。」  濃姫の幼い子らは悲しそうな表情で濃姫を見た。  「最後まで我儘(わがまま)な母と父で許してくれ。オマエ達は、この者達と末永く達者に暮らすのだぞ。」  ある程度年齢が経った子らは今にも泣きだしそうな目をしたが必死に我慢していた。だが一番幼い子は、「嫌じゃ!」と泣き叫びながら濃姫の足を力強く抱きしめた。  「こ、コラ、その手を離さぬか!」  「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ! 母上や父上と離れるのは嫌じゃ!!」  「ダメじゃ。早くここから立ち去れ!」  「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ!! 母上も父上も親じゃ。親はいつも一緒にいるんじゃ!!」  この子は、まだ分別が付かない子だと思っていた。だが、想像以上に良い子に育っていたようだ。可愛いこの子と離れるのは惜しい。  濃姫は、泣き叫ぶその子の頬に優しく手を触れて言った。  「嬉しい事を言うな、オマエは。童まで泣きたくなってしまうじゃないか。」  「母上…。」  濃姫は、泣き叫ぶその子を優しく抱きしめた。それを見て、泣くのを我慢していた子らも我慢できずに濃姫に抱きついた。濃姫はそれを温かく受け入れた。
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